さらばカントリーマアム

 不二家の不祥事が起きた。期限切れの原料使用問題。
 悲しいことですね。〝雪印の二の舞にならないため〟とか言っといて、似たようなことやってるんだもんなあ。そりゃなるさ。二の舞に。
 罰当たりな話なんだけど、大して関係ないと思ってた。不二家が作ってるものが食べられなくなるってこと。一人暮らしだし。そんな、不二家の洋菓子とかに手を出すほど、僕の経済状態潤ってないし。〝今日は不二家のケーキが食べたい気分♪〟なんて囁いてくれる女の子なんていませんし。
 そう思ってたら、あれよあれよと言う間に、不祥事がどんどん出て来て、ああ、これが〝叩けば埃が出る〟ってやつなんだ、と思って、テレビを見てました。不祥事が立て続けに起きたもんで、販売停止も洋菓子にとどまらなくなっちゃって、これが販売停止になった主なラインナップ、みたいな感じでテレビの画面に並んでたのが、カントリーマアムね。そうなるとちょっと話が違ってくるんじゃないの? みたいな。カントリーマアムは、スーパーで買い物してるときに、ついついついでに買っちゃったりするよ、みたいな。
 でも、まだ僕の感覚ってのんびりしてて。のんびりしてるというよりも、何て言うんだろう。意地汚いと言うか、狡猾と言うか。なんか、瞬時に僕の中の、全くあてにならない計算機が計算を弾き出して、「あ、これ明日辺り、スーパーでカントリーマアム激安なんじゃない!?」みたいな。こう、販売停止だから、カントリーマアム売りきっちゃおう、みたいなことになるんじゃねえの、と。そんな感じで、軽くスキップしながら、スーパー行ったら、ありませんでしたわ。カントリーマアム。やっぱり。
よくよく考えたら、そりゃそうですよね。不二家の件の後でも、たとえ激安になってても、カントリーマアム売ってて、客から「お前よ、何考えてるんじゃボケ!」って言われたら、何も言い返せないもん。いやー、でもカントリーマアムか。やっぱ、不二家だけに影響はでかいですね。
 それにしても、賞味期限切れの材料を使ってたことが、今回発覚したわけだけど、発覚するまではそんなこと、表記されてたわけじゃありませんもんね。むしろ、〝こいつ出来たてだよ、おいしいよ〜〟くらいの勢いで並んでたんでしょうよ。それって、どうにもならないですよね。生身の人間の嘘よりも、質が悪い。生身の人間との付き合いの中での嘘なら、その人の表情とか、周囲の状況とか、どこかから聞こえてきた風の噂とか、そういうので何となく、「ん?」とは思うことはできる。でも、賞味期限なんて、所詮表記されるのは、数字だけだから、どうにもならないものな。見破りようのない嘘。
 ニュースでは、不二家は今後、失った信頼をどうやって取り戻すのか、みたいなこと言ってるけど、もう信頼なんてできないですよね。これからの不二家に持つものは、誰かが〝信頼〟って言っても、今までの〝信頼〟とは違う気がする。信じる信じないじゃなくて、「こいつになら騙されてもしょうがない」とか、「安いから、万が一賞味期限切れでも、いいか」とか、そういうものになると思うんだよな。これって、信頼じゃない。関係の放棄と言うか、もう、信頼して、突然のニュースで、あれは嘘でした、なんて言われるのは、誰だって嫌だもんね。「こいつ、もしかしたら、嘘ついてるんじゃないのかな?」なんて、嘘に対する予防線を敷く暇もない。不意打ちに次ぐ不意打ち。そりゃ、信頼なんてできなくなるよなあ。
 ま、僕も、不二家が立ち直って、カントリーマアムの販売を再開したら、買っちゃうんだろうな。でも、もうノーガードで買うことはできない。「カントリーマアムになら、騙されてもいいか」って言うスタンス、僕も持っちゃうな。うん。悲しいけど。
 悲しいけど、カントリーマアムはおいしい(もしくは、〝おいしかった〟)よね、という話。